この10年で世の中は変わった。巻組の松本「進出」から考える、空き家活用の現在地。
こんにちは。巻組代表の渡邊です。
前回のメルマガでは、いま私たちが注力している「一棟貸しゲストハウス」の需要についてお話ししました。
その中で、まもなく長野県松本市に最新のゲストハウスがオープン予定とお伝えしましたが、今回はその物件のご紹介を中心に書いてみたいと思います。
巻組の理念に共感して再生をお任せいただく
私たち巻組は2015年3月に宮城県石巻市でスタートし、地域の空き家の再生活用を手掛けて丸10年になりました。
現在運用している約20件(シェアハウス、ゲストハウス、一般賃貸など)は、東京都新宿区の1件を除き、すべて石巻市内および宮城県内。ですので、今回の松本市の案件は県外の地方都市で初の展開ということになります。
この物件も、巻組がこれまで手掛けてきたのと同様、築50年以上の古い一戸建てです。現在のオーナーさんは、相続でこのご実家を取得しました。でも、離れた場所に住むオーナーさんご自身は、そこに住む予定はありません。
かといって愛着のある家を手放す気にもならず。維持管理費を賄うため民泊化も考えたけれど、どうしていいかわからない。
地元の不動産会社に相談したら多額の初期投資が必要と言われ、諦めかけた・・・・・・。というところでご縁をいただき、巻組が借り上げた上でリノベーションから運用まで担当させていただくことになったものです。
今回のオーナーはなぜ、思い出の詰まったご実家の将来を、初めて聞く巻組という会社に委ねる決断をしてくださったのか。
その理由について私は、巻組のこれまでの空き家再生実績だけでなく、その背景にある理念――日本のスクラップ&ビルド文化に抗い、資産価値の低い不動産から価値を生み出す――に共感いただいたからだ、と自負しています。
もちろん、オーバースペックを排し、使えるものはできるだけ残してコストを抑えつつスタイリッシュな空間を生み出す、巻組独自のリノベーション手法にもご賛同いただくことができました。
なぜ石巻から遠く離れた松本に?

どんな不動産でも買い手・借り手を見つけやすい大都市部と違い、人口30万人に届かない地方都市には、松本市の物件オーナーさんと同じような悩みを持つ空き家オーナーおよびその予備軍がたくさん存在します。
空き家を商材とし、その改修から運用まで「総合プロデュース」を強みとする巻組にとって、そういう地方都市はいわば宝の山であると同時に、理念の実践を通じてわかりやすく社会に貢献できる場とも言えます。
そこで、私たちはここ数年、積極的に石巻市以外の地方都市での展開を志向。
まずは塩釜市、東松島市、加美町など宮城県内の近隣市町で物件を開拓してきました。不動産という現物を扱うビジネスでは、やはり物理的な距離の近さは有利に働くからです。
それが今回、500㎞以上離れた長野県に「進出」することができたのは、日本郵政グループとのご縁がきっかけでした。
巻組と日本郵政グループとは2022年からご縁があります。同グループの「ローカル共創イニシアティブ」という取組みの一環で、若手社員1名が同年4年から2年間、巻組へ出向し、新規事業の創出に携わってくださったのです。その具体的な検討テーマの一つが「郵便局の空き家みまもり」サービスとの連携でした。
「郵便局の空き家みまもり」サービスとは、空き家所有者の方に代わって、物件の近くの郵便局社員が状況を確認し、報告するサービスですが、郵政グループさんとしては、状況確認だけに留まらない、サービス拡大の可能性を検討しておられました。
その中で必然的に見えてきたのが、そうした空き家を活用したいというニーズへの対応です。
全国レベルでの実証実験の一部を巻組がご一緒するうち、同サービス利用者の中に、所有する空き家を活用したい意向を持ち、かつ巻組に相談して差し支えないという方が数人おられ、その中のお一人が松本市のオーナーだったのです。
巻組は、この物件を皮切りに、今後も松本市内および周辺地域で同様の案件開拓をしていきたいと考えています。
国宝・松本城をはじめとする観光資源も豊富な同市は、インバウンド需要も堅調で、一般的な日本家屋をそのまま生かしたゲストハウスの可能性には大きく期待しているところです。
また、巻組の本拠地である石巻市や宮城県と比べると、やはり長野県は東京からのアクセスが良好。
昔から移住希望地ランキングの上位であると同時に、近年は2地域居住の拠点としても人気があるようです。これはつまり、「空き家活用の幅が広い」ということですから、私たちはその意味でもこの地域の将来性に注目しています。
この10年で危機感レベルが格段にアップした
巻組の設立は2015年ですが、創業のきっかけとなったのは2011年の東日本大震災でした。
発災直後から支援のため石巻市に入ったヨソモノたちが、そのまま留まりたくても住む場所がない。私はそんな状況を見かねて、なんとか市内に残った空き家を探して大家さんを説得。必要最低限の改修を施してシェアハウス化したのが始まりでした。
ただ、震災直後の住宅不足は一時的なもので、その後は人口流出の中で新築住宅がたくさん建てられ、気がつけばまた空き家が「大量生産」されてしまっていたのです。
たった10年ちょっと前の話ですが、当時はまだ、「空き家問題」の認識はあっても切迫感はなく、正直、私のようなヨソモノが「空き家活用で地域再生に貢献」などと言っても相手にされなかったり、怪訝な目で見られたりすることは多かったです。
でも、昨年、能登半島地震の被災地を訪れてみて、この10年で状況はガラッと変わったと体感しました。人口減少が危機的に加速する中での復興とはどうあるべきか。
不動産に関しては、やみくもに「壊して新しく建てる」のではなく、使えるものはなるべく活用する。そこに積極的にヨソモノを呼び込んでソフト面でも復興・再生につなげていく。
そうした、東日本大震災のときとは明らかに違う発想がなされているように思います。
言葉を変えれば、巻組がこの10年、掲げてきた理念・ビジネスコンセプトが、やっと一般化してきたとも言えるのではないでしょうか。
10年間を振り返ると、失敗もたくさんあった、というより失敗の連続でした。が、おかげさまで失敗から常に何かを学ぶことができ、それが今の巻組につながっています。
これからも石巻・宮城を本拠としつつ、身の丈にあった形で他地域への展開を進めていく考えですので、今後とも応援をよろしくお願いいたします。