アフターコロナも数千万人のワーカーが
「余白」を持つ時代、
サードプレイスとしての石巻の魅力を伝えたい

ハーマンミラージャパン株式会社 代表取締役松崎 勉さん

巻組との関わり

「Third Self」会員向けコワーキングスペースに協賛

松崎勉氏プロフィール
宮崎県生まれ。大学卒業後、鉄道会社に入社。米国のビジネススクール留学を経て経営コンサルタントに転身。その後、シリコンバレーでIT企業を創業・経営。2007年、世界的家具メーカーである米国のハーマンミラー社の日本法人代表に就任。アジアパシフィック地域のリテール部門の代表も兼務する。
東日本大震災直後の2011年11月、ハーマンミラー社として石巻市にて2週間のボランティアプロジェクトを実施。また、被災地発DIY家具メーカー「石巻工房」の立ち上げメンバーであり、現在もプロボノとしてその経営に関わる。

■石巻を都会のビジネスパーソンにとってのサードプレイスに

巻組さんがCreative Hub2階にオープンした会員制コワーキングスペースに、ハーマンミラーや石巻工房の家具を提供する形で協賛させてもらいました。

このワークスペースは、都会のビジネスパーソンのリピート利用を想定してデザインされています。コロナ禍でリモートワークが定着するなか、都市部では自宅でも会社でもない第三の場所(サードプレイス)の必要性が改めて注目されています。このプロジェクトは、「いっそ石巻全体を都会人にとってのサードプレイスにしてしまおう」という構想から誕生しました。

最初のアイデアは、本ワークスペースの総合設計を担当したdada株式会社の野村大輔氏と私との“雑談”の中から生まれたものです。二人とも東京で仕事をしているわけですが、在宅勤務が長くなってだんだん息が詰まってきた。近所のコワーキングを利用するのもいいが、通勤という前提がなくなったいま、もっと遠方に「滞在型のサードプレイス」があってもいいのではないか?かといって、バケーション用の高級リゾートにはそうそう連泊もできない。もっと自然体で居心地のいい場所はないだろうか?

・・・そんなことを野村さんと話していたとき、私は東日本大震災直後からご縁をいただいている石巻と、そこでユニークな不動産活用を行っている巻組の渡邊享子さんを思い出し、「ここだ」と思ったわけです。

■石巻との出会い

大震災から8か月後、私は世界各国のハーマンミラー社員12名とともに石巻を訪れ、2週間のボランティア活動をしました。それが石巻との出会いです。津波被災した住民の方々から、「家具が無い」という声を聞き、家具づくりのプロジェクトを実施。仮設住宅の掃き出し窓の外に置く縁台ベンチをつくって差し上げたり、材料と工具を用意してみなさんが自分で必要な家具を作れるワークショップを開催したりしました。DIYは特に好評で、小学生からシニアな方々まで大勢の方々が参加されました。

また、DIY家具メーカー「石巻工房」が誕生したのもこのときです。これは、先に現地に入って活動していた建築家の芦沢啓治氏の構想を、設備面・資金面で私たちがサポートする形で実現しました。石巻工房はその後法人化し、私個人は現在でもプロボノとして運営の支援をしています。

こうした活動を通じて、私は石巻とのご縁を深めていきました。訪れるたびに豊かな自然、食、文化、人々の暮らしに触れ、私にとって石巻は特別な場所になっていったのです。

巻組代表の渡邊さんとは、私が最初にボランティアで来たときから接点はありましたが、当時はまだ大学院の学生さんでしたね。実際に協働したのは、今回のコワーキングスペース立ち上げが初めてです。「石巻にサードプレイスをつくる」という構想をお話ししたところ、巻組さんが運営するCreative Hubという元倉庫物件の2階を使って実現できることになったのでした。

■ワークスペースとしてのクオリティにはこだわりを

設計者の野村さんとともにワークスペースのデザインを考えるなかで、そのクオリティにはこだわりました。東京の洗練されたオフィス空間の心地よさをそのままここで実現しないと、ターゲットとする層のビジネスパーソンは来てくれませんから。

ハーマンミラーが協賛したコーナーは、「リトリートワークプレイス」と命名しました。丸の内にあるエグゼクティブ向けのプライベートオフィスをイメージしたもので、最先端のエルゴノミクス(人間工学)に基づいたチェアをはじめ、作業環境の快適さに妥協はありません。一方で、東京と100%同じではつまらないですよね。そこで、壁の一面にDIYをイメージさせるような、いろいろな工具が吊り下げられた写真の壁紙を使いました。DIYは都会では難しいことだし、また上述の通り、私たちが石巻で最初にボランティア活動したときのコンセプトでもあります。

ワークスペースの中には、このほかにも「ワーキングステージ」や「タイニーハウス」と名付けられた個性的なコーナーがあります。前者は、当社が主催した設計コンペの最優秀作品を実装したもの。後者は野村さん自身のコンセプトである、建築確認が不要な10平米以下の極小住宅のモデルです。さらに、当社以外に25社もの家具・インテリアメーカーさんが協賛されており、本コワーキングスペース全体が一種ショールーム的な空間になっています。全体に「人が緩やかにつながれること」を意識したデザインになっているので、ぜひここで生まれる偶発的な出会いを楽しんでほしいですね。*

*このコワーキングスペースは会員制コミュニティ「Third Self」の会員専用です。会費には本スペース利用権のほか、年2回の石巻特産海産物のお届けが含まれます。また、宿泊施設やマリンアクティビティ体験なども会員特別価格で利用できます。詳しくはお問合せください。

■もう「余白のない」ワークスタイルには戻らない

私自身すでに何度も石巻を訪れていますが、ここには蛤浜(はまぐりはま)というそれは美しい浜辺があって、釣りやSUP、カヌーなどが楽しめます。実際に石巻に滞在しながら仕事をしてみると、以前なら通勤に費やしていた2時間を、こういうマリンレジャーに使えるわけです。週末には近くの山へハイキングにいったり、手軽に自転車ツーリングをしたり。現地をよく知らないヨソモノでも、ちゃんと案内してくれるサービスプロバイダーがいるから心配ありません。こうして、仕事でも家事でもない「第三の自分(サードセルフ)」の時間を思い切り充実できるのです。

でも、コロナが収束したらどうなるか?テレワークも終わり、サードプレイスもサードセルフも無意味になってしまうでしょうか?

もちろん多少の揺り戻しは予想されます。しかし、以前のような出社義務・副業禁止といった、「まったく余白のないワークスタイル」にはもう戻らないでしょう。このことは既に世界中の大企業の間でコンセンサスになっていて、今後も多くの会社が週に数日の在宅勤務や副業を認めていくと思います。なぜなら、少子化で人材争奪戦が激しくなるなか、そういう自由度(余白)がある会社とそうでない会社は、社員にとってどちらが魅力的か?答えは明らかでしょう。

私自身、社長として以前は副業や遠隔勤務などあり得ないと思っていましたが、この環境の変化を経験して、いとも簡単に考えが変わりました(笑)。いまでは完全在宅勤務を前提とした採用枠も設けています。一定の制限はありますが、場合によっては出社しなくても副業をやっても、本業できちんと結果を出せればよいという考え方になりつつあります。

これからの日本は、そうした「余白」を持つワーカーが常に数千万人単位で存在する状態になります。そういう人たちが石巻にきて、美しい海で朝1時間カヌーを楽しみ、9時になったらコワーキングスペースで仕事をする。もうワークとバケーションを区別する必要もない、そんな暮らしが普通になったら素敵ですよね。

アフターコロナも数千万人のワーカーが
「余白」を持つ時代、
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