アーティストが住まう日和坂アート研究舎
石巻でアート活動を続ける
(後編) パルコキノシタさん
巻組との関わり
巻組シェアハウス「日和坂アート研究舎」を利用。
リボーンアート・フェスティバル2019において、パルコキノシタの豚の作品の施工を巻組が担当。
~前編からのつづき~
2019年のリボーンアートフェスティバルの”豚の牧場で命の循環を感じる”という豚のアート作品。メディアが未曽有の大震災がすべてを破壊して、何もかも奪っていったと報道する中、人間社会が構築した人工物はなくなったかもしれないけれど、もとからここには先人が共生してきた豊かな自然があるではないかと思っていたんです。この作品の立っている土地は、かつて津波によってヘドロが被ってしまったかつて農地だった荒れ果てた土地を再び牧場として再生する、海と山に面した斜面で元気に豚が生活しているところ空間すべてをアート作品として再構築したいという音楽プロデューサーでありリボーンアートフェスティバルのディレクターである小林武史さんの問いかけに僕がアンサーとして提案にしたものでした。震災を経験し、人が住まなくなった集落には、信仰も絶えてしまったわけですが、そんな場所にも神様はいるのかが、僕のアーティストとしての1つのテーマでした。「たとえ被災し、またいつ津波が襲ってくるかわからない、人が住めないような場所になっても、そこに神様はいる」っていうことを、目に見える形で表したくて、豚の巨大な像を作りました。
巻組には、豚の設計を担当してもらいました。神様を作るにあたって、大きな豚を作りたかったんだけれど、大きい豚を作る技術を持っている人なんて一人もいなじゃないですか。巻組は家を建てる高い技術を持つ会社です。なんと一軒屋を建てる美術の応用で、木の組み合わせで豚らしさのある、かわいい曲線を作ってくれました。豚の骨組みは家の工法で作られながら家には見えません。豚に見えます。被災地の地面を割って、地面から豚の神様が力強く復活してくる空間インスタレーションにしました。
さらにもう一つのオーダーを巻組にお願いしました。“豚に観音開きの扉をつけてもらうことです。重要だったんです。その扉の中に作品の豚のコンセプトを伝える絵をどうしてもその中に入れたかったんです。リボーンアートフェスティバルの開催中は、お客さんは常に忙しくいくつものアート作品を見て回るから、長い文章でコンセプトを伝えるのは不親切であると、どうしても絵で伝えたかった。そうしないと豚の牧場だから、大きい豚を作ったのねとそれだけだと思われてしまわないように。図式で解説する必要がありました。
今は、現在暮らしている日和山のシェアハウスの隣にある蔵をどうするか考え中です。巻組の渡邊さんから「蔵をアーティストに何とかしてもらえないか」と声をかけてもらいました。その蔵は、現在かなり劣化が進んでいて、ロープで引っ張ったら蔵ごと倒壊するんじゃないかってくらいのダメージの蔵なんですが、でもそれが人間の技では出せない程よいボロボロ感なんですね(笑)。そこで、リボーンアートで展示した作品の継続をここでやれないかと考えて木彫りの活動を継続しようかと考えています。さらに日和山に人が集まるコミュニティーとかをやれたら素敵だし、ギャラリーを日和山でオープンさせたりも可能ではないかって考えています。
日和山でアート活動するのは二つのベクトルがあります。やるのは楽しく復興するというイメージがあるかもしれません。でも、3.11のままで時が止まっている人がいたら、そういう人たちの哀悼の場所があってもよいような気がしています。
人の悲しみをやわらげたり、人と向き合ったりする中で、文学なら言葉で表現するけれど、アートは言葉で表現できない、さらなる隙間を鑑賞や体験で埋めていく。それが僕の仕事だと思っています。
(2020年3月取材)