第三の場所(サードプレイス)で第三の自分(サードセルフ)を充実させる。 コロナ禍を契機に最先端のライフスタイルを石巻から発信

Creative Director / CEO野村大輔さん

巻組との関わり

Creative Hub 2階コワーキングスペースの総合設計を担当

■2021年3月に誕生したコワーキングスペース

巻組さんのCreative Hub2階コワーキングスペースの総合設計を担当しました。ハーマンミラージャパンはじめ、国内外の家具メーカー・インテリアメーカー26社の協賛をいただいて完成したこの場所は、実験的な要素も取り入れた3つのコンセプトブースを設けていて、これからのワークスペースデザインのショーケース的役割も果たすものと考えています。

コンセプトブースのひとつに「ワーキングステージ」というものがありますが、これはハーマンミラージャパンが2020年秋に開催し、僕も審査員として関わった設計コンペの最優秀作品(徳野由美子氏による)を実現した空間です。壁が壊せないなど制約が多い築古の2LDKをテーマに、ワーク&ライフスタイルを豊かにする空間づくりに挑むコンペでしたが、もともとそのテーマ物件は巻組さん所有の築40年超の旧社員寮だったんです。それが、僕と巻組さんとの最初の出会いでした。

■仕事場だけでなくライフスタイルのデザインを~石巻との出会い

僕は東京でずっとオフィスの設計をしてきました。ここ十数年で日本のオフィスデザインはものすごく洗練されてきて、働く人のオフィス環境に対する満足度はかなり上昇しているんですよ。なのに、「働くこと」そのものへの満足度はずっと低迷している。それはなぜだろうと考えたら、やはりライフスタイルまるごと考え直さないといけないんじゃないか、と。いくらオフィスはきれいで快適でも、1日中そこに縛りつけられ、毎日満員電車に揺られて狭い自宅と往復するだけ。それでは満足度が上がるわけありません。

そもそも、東京のサラリーマンは毎日3時間くらい通勤に費やしているわけです。その時間をもっと人生を豊かにすることに振り向けられないか。そう考えるようになったのが3~4年前くらいでしょうか。2019年に独立して会社を立ち上げるまでは都内の設計事務所に勤めていたんですが、当時から僕は勝手に一人でリモートワークを始めていて(笑)、オフィスにいなくても結果は出せるということを実証してきました。

ハーマンミラージャパンの松崎勉社長とは長いお付き合いで、コロナ前から、そうやってみんながもっと自由に働く時間や場所を選べる時代になったらいいね、と話していたんです。それがコロナで一気に“実現”してしまった。でも、都心の住宅事情で準備もないままいきなりテレワークと言われても厳しいですよね。小さなお子さんのいるマンションでは、パソコン開いてオンライン会議ができる唯一の場所がキッチンやトイレだったりするわけです。

この状況をなんとかしたい。空間設計のプロとして在宅ワーク環境をどうデザインできるか、松崎さんと意見交換するうちに、こちらからモデルを提案するのではなく、デザインコンペで広くアイデアを募ったらどうかということになりました。ただ、そのアイデアを実現するのに、誰かの個人宅よりももう少し社会的インパクトのある場所はないだろうか?さらに、通勤の制約がなくなったいま、首都圏ではなく敢えて地方でそういう実験をしてみることはできないか?そこで、石巻市で長く震災復興支援を続けてきた松崎社長が、巻組の渡邊享子さんを紹介してくれたというわけです。

■石巻の魅力を「サードプレイス」に

僕が最初に石巻を訪れたのは2020年9月のことです。その後、東京から仕事仲間を連れてきたりして何度か滞在しているうちに、僕は石巻の自然、そこに流れる時間、「食」や「人」にすっかり魅了されてしまいました。そうやって渡邊さんはじめ地元の方々とも話しているうちに、テレワーク環境のモデル施設をつくるという当初の構想にとどまらず、石巻全体を個人が豊かなワーク&ライフを実現できる「第三の居場所=サードプレイス」にしよう、というプロジェクトへと発展していったのです。

もっとも、「サードプレイス」というコンセプト自体は新しいものではなく、コロナ以前にも、オフィスと自宅以外のサードプレイスとしての、コワーキングスペースやサテライトオフィスの導入が模索されてはいました。しかし、当時はあくまでも通勤することが大前提で、「近場・短時間」型が主流。それが、リモートワークの浸透で移動距離の制約がなくなり、もっと遠方で滞在しながら働く「遠方・長時間」型サードプレイスの可能性が一気に広がったわけです。

上述の設計コンペ自体は当初の旧社員寮テーマで実施しましたが、そのころ僕は巻組さんの別の物件、もっと中心市街に近いCreative Hubというクリエイター向け倉庫物件の方に可能性を感じ始めていました。それで、首都圏のビジネスパーソンが石巻に滞在する際、まずは快適に生産性よく働ける高品質なワークスペースを、当時まだ手付かずだったCreative Hubの2階部分に作ることを提案したのです。

■26社協賛で実現した高品質なワークスペースは、さらにその先へ

このコワーキングスペースには、上述の「ワーキングステージ」のほか、ハーマンミラージャパン協賛の「リトリートワークプレイス」や僕自身の実験的コンセプトである「タイニーオフィス」という空間を設けました。全体に「人のつながり」が自然と生まれるような設計になっているので、東京では知り合えないような人と出会ったり、同じ組織の人とも普段より腹を割って話し合えたりする場所になったらうれしいですね。

なお、家具や備品はすべて協賛社から提供をいただいています。僕が1社ずつ企画を説明していって、最初は10~15社でも賛同してくれれば御の字と思っていたんですが、結果は26社。サードプレイスのニーズに対する関心の高まりを感じました。それぞれ個性と特徴がある製品同士を組み合わせて空間をデザインするのはかなり大変な仕事でしたけれど、おかげさまで他に類を見ない場所ができあがったと思っています。

このワークスペースは、主に都市部のビジネスパーソンを中心としたリピート利用を想定しています。ただ僕は、いま流通している「ワーケーション」という言葉で想起されがちな「リゾートでバケーションしながら合間に仕事もする」という滞在とは一線を画したいと考えていて。僕は「豊かさ」のベースとは「人のつながり」だと思っています。だから、利用者にはもっとこの地域の「暮らし」を知り、僕が惹かれたような豊かな自然や食、そして地域の人に親しんでもらえるような機会をパッケージで提供したい。そのため、巻組さんと一緒に「サードセルフ」という会員制サービスの立ち上げも準備しています。この企画にはもう1社、石巻市牡鹿半島の風光明媚な蛤浜(はまぐりはま)でカフェを営み、マリンレジャーや、水産業・林業・狩猟の6次産業化などの事業を展開する一般社団法人はまのねさんにも参画いただいています。

東京から400キロ離れた石巻という「サードプレイス」で、「職業生活でも家庭生活でもない第三の自分(サードセルフ)」の時間を充実させ、個人がより豊かな暮らしを実現してほしい。またそういう社員が増えるのは送り出す側の企業にとっても良いことのはずだし、関係人口の創出という意味で地元にとっても良いこと。三方良しの仕組みを皆さんとつくっていきたいと思います。

(2021年4月取材)


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野村大輔(のむら・だいすけ)氏プロフィール
dada株式会社 Creative Director / CEO
1975年東京生まれ。ゼネコン、設計事務所、メーカー、デザイン事務所を経て、2019年dada㈱を設立する。㈱ジャニーズ事務所、㈱電通、㈱オールアバウト等多数のオフィスデザインを手掛ける。その企業の持つ空気感、居心地の良さを大切にした環境を構築する。デザインワークを主軸にディレクションから工事監理までを担い、クリエイティブな造り手達とともにプロジェクトを築き上げる。オフィスの意味が問われ直す今、従来のワークスタイリング領域を超えて豊かなライフスタイルの創出に取り組む。

コワーキング全景 第三の場所(サードプレイス)で第三の自分(サードセルフ)を充実させる。 コロナ禍を契機に最先端のライフスタイルを石巻から発信 タイニーハウス 第三の場所(サードプレイス)で第三の自分(サードセルフ)を充実させる。 コロナ禍を契機に最先端のライフスタイルを石巻から発信 thirdself