「不動産業×クリエイティブなモノづくり」で新しい価値を創造

有限会社若林商会 代表取締役若林 明宏さん

巻組との関わり

イシノマキオモシロ不動産大作戦に参加、神楽坂WM共同企画

■モノづくりと出会いの新しい基地、石巻ホームベース誕生

私は2018年夏から、東京と石巻を往復する2拠点生活を続けています。東京では若林商会の不動産業(所有オフィスビルの運用)を営み、石巻では家具メーカー石巻工房の一員としてモノづくりの仕事に関わってきました。そして2020年秋、石巻工房と共同企画した商業施設「Ishinomaki Home Base(石巻ホームベース、以下IHB)」を石巻市渡波(わたのは)地区にオープン。現在はそこで月の半分以上を過ごしています。

不動産運用のノウハウにモノづくりのクリエイティブな要素を掛け合わせて、新たな価値を創造していくのが私のビジョン。IHBはそれを実現する場のひとつとして企画しました。発端は石巻工房のショールームを作る話でしたが、私自身の夢だったオーダーメイド自転車の工房もここで一緒に作ることに。さらにギャラリーも、カフェも、ゲストルームも、と構想が広がって現在の形になりました。

▷Ishinomaki Home Baseウェブサイト(外部リンク) 

IHBを企画したのは、巻組さんの「オモシロ不動産大作戦」(2018年)に参加した影響が少なくありません。巻組自身、空き家をクリエイティブに活用していますが、このイベントでは日本各地で同様に面白いことを仕掛けている人たちの話が聞けて、非常に刺激的でした。もともと、不動産とクリエイティブなことを掛け合わせたら絶対おもしろいはず、という漠然とした思いはありましたが、具体的な事例を学んでこれはイケると確信。自分も何かやってみようという気になったのです。

■モノづくりスピリットの原点は祖業の自転車製造

なぜ不動産とモノづくりかといえば、それは若林商会の祖業とも関係しています。祖父が創業した当時は、自転車の製造販売をしていました。時代の変遷とともに事業内容を変え、父の代に自動車ディーラー、そして不動産業に転身したのです。一人息子の私は、いつかは跡を継ぐものと思いつつ大手保険会社に就職。海上・貿易保険を中心に20年以上経験し、海外にも都合8年駐在しました。

2011年に父が他界したとき、私はニューヨーク駐在中でした。家族の協力のおかげで、しばらくは会社勤めを続けながら二足の草鞋で家業の経営にあたりましたが、6年後、ついに退職して若林商会に専念することになったのです。

そういう経緯もあり、会社を辞める前から事業展開のビジョンは考えていました。自転車製造というモノづくりスピリットへの回帰も、当時から志向していたものです。そんななか出会ったのが、DIYをコンセプトとした家具メーカー、石巻工房でした。インテリア誌でその家具を見て興味が湧き、いろいろ調べると、ここと一緒なら面白いことをやれそうだと直感。退職後すぐに連絡し、トレーニーとして働かせてほしいと頼みました。すると、ちょうど海外業務の人材を求めていた石巻工房のニーズと合致し、晴れて石巻との二地域居住が始まったというわけです。

トレーニーとして学びたかったのは、家具づくりのみならず、工房経営のノウハウです。モノづくりをしたいといっても経験はゼロ。自分に向いているかどうかわかなかったので、お試しの意味もありました。でも実際に現場で働いてみて、やはり自分にはそういう遺伝子もあるのかなと感じます。私の姉と妹は芸大を出て作家として活動しているのですが、私は保険会社に勤めながら心の隅で彼らをうらやましいと思っていましたから(笑)。

いま、念願だった自転車製造は、IHBを拠点に9W(ナインダブリュー)というブランドで展開しています。完全オーダーメイドのフレームビルド。手作りで細部にこだわった、工芸品ともいえる自転車です。この9Wの自転車は、私が巻組と共同企画した東京・神楽坂の商業施設WM(ウム)のギャラリーでも展示しています。

■東京では絶対に会えないクリエイターに、石巻で会える

最初に石巻で住居を探したとき、石巻工房などから巻組さんを紹介され、まずCOMICHIに3か月滞在。その後は日和山アート研究舎を2年余り利用しました。これらのシェアハウスに入居してみて分かったことは、巻組の“さりげない入居者スクリーニング”のノウハウです。同業者としてとても参考になると同時に、すぐに真似できるものではないなと思いました。

巻組はアーティストなどクリエイティブ系の人たちに優先して活躍の場を与え、そこから生まれたコミュニティが次のクリエイターたちを惹きつける循環を作っていますね。私自身も、まず「人が集まる仕組みを作る」ことが大切だと考えています。集まったところから収益モデルが生まれ、お金が回り始めるのです。

例えばマンハッタンのソーホーは、倉庫街だったところにアーティストが住みついたことでおしゃれな雰囲気に変わり、そこに高所得者層が引き寄せられて地価が上がりました。すると、住みづらくなったアーティストたちは別のところを探して移っていき、そこで同じことが起こる。そうやって治安が悪かったところが次々きれいになり、街が発展していくケースを私はアメリカで学びました。

石巻の魅力も、ここに集まる「人」のおもしろさだと感じています。東京はもちろん、世界からもわざわざ石巻を目指して人が来る。東京にいたら絶対に会えないようなクリエイターたちに、石巻では会えるのです。IHBのような場所を見て、石巻っておもしろいねと思ってくれる人が増えたら嬉しいし、そういう人たちが集まることで、地域全体の価値が向上していく循環づくりに貢献したいと考えています。

(2021年6月取材)

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