「食」を通じてこのまちの人たちを幸せに

「季節のおいしい食卓 SONO」オーナー小川 奈津美さん

巻組との関わり

巻組が運営に関わった起業家育成プログラム「石巻版松下村塾」に参加
巻組リノベーションによる物件で開業

■震災後にご縁ができた宮城県で夢の実現へ

生まれは静岡県です。東日本大震災当時は首都圏で働いていましたが、まもなく宮城県のボランティア団体に所属して復興支援に携わるうちに、東北の被災地でカフェを開くことが私の夢になりました。一度実家へ戻り、リサーチと準備をして2017年4月に石巻へ。ここには私と同年代のオモシロイ人たちがたくさんいて楽しそう!というイメージがあったからです。もちろんいきなりカフェ開業は難しいので、まずは市内の人気カフェ「はまぐり堂」などで働きました。

「はまぐり堂」オーナーの亀山貴一さんは、「石巻松下村塾」という起業塾の塾長も務めておられ、亀山さんの強い勧めで私も入塾したのですが、そこでは多くの貴重な出会いがありました。プログラムは事業計画の詳細を詰めるというより、「自分は何故それをやりたいのか?」を徹底的に深堀りするような内容でした。講師の一人に「おまえは誰を幸せにしたいんだ?」と問われて答えられず、号泣したこともあります。

そんな松下村塾を無事修了した後、市内の菓子店の工房を借りて、週に一度の「おまんじゅう屋さん」を始めました。実家の祖母から教わったレシピをもとに、国産素材を使っています。地元の人たち、特に育ち盛りの子どものおやつに、と願って作りました。まずこのおまんじゅう屋を軌道に乗せて、カフェについては数年かけてゆっくり準備・・・と思っていたら、まもなく巻組の渡邊さんから「いい物件があるよ」と紹介されたのです。

元は理髪店だった建物で、見てすぐ「ここはおもしろそう」と思い、決めました。改装については巻組さんの設計担当の方のセンスを全面的に信頼していたので、ぜんぶお任せだったんですよ。こうして、2020年5月、念願のお店「SONO」がオープンしました。店名は、支援してくれた祖母の名前「その子」に因んだもの。また、お客さん同士がつながる「園」になったらいいなという気持ちも込めました。現在は基本テイクアウトのみで、地元の食材を使った総菜を日替わりで、毎日4~5種類提供しています。

■自分がやりたいことの原点に戻って次の一歩へ

ただ、開業がちょうど最初の新型コロナの感染拡大時期と重なってしまいました。全国で緊急事態宣言の真っ最中だったので、大々的な告知は難しく、SNS発信やチラシ配布くらい。テレビや雑誌で紹介されたのですが、ちょうどお店の近くで道路工事が始まって入りづらくなってしまったり。正直、タイミング的には不運が続きました。

それでも口コミで少しずつお客様は増えていますが、やはり店をやるというのは予想以上に大変なこと。ただ待っているだけではダメなので、イベントに出店して集客につなげたり、アスリートフードマイスターの資格を活かしてワークショップを開いたり、という展開を考えているのですが、コロナ禍ではそれも難しく、悩んでいます。

でも、思い返せば私が東北に来たのは大震災がきかっけ。被災地を元気にしたいというのが私の原点で、その軸がブレることはありません。そもそもカフェをやること自体が目的ではなく、私にはそれを通して実現したいことがありました。一つはこの地域のスポーツ少年少女たちを「食」の面から応援すること。地元の子どもたちが県大会や全国大会などで活躍すれば地域全体が元気になるでしょう。もう一つは、地域の健康です。宮城県はメタボ該当者や予備軍の割合が全国ワーストに近く、なかでも沿岸部は多いんです。喫煙率も高いし、そういう環境の改善に少しでも貢献したいと思ったからです。

松下村塾では「誰を幸せにしたいのか」と問われて答えられませんでしたが、今なら「このまちの人たちを幸せにしたい」と言えます。この土地でたくさんの人に支えてもらってきたのだから、いただいた応援に対して恩返しがしたい。今はとても苦しいですが、その原点を忘れずに次の一歩へつなげられたらと思っています。

(2021年9月取材)

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