能登の被災地を訪問、改めて空き家活用を考える
能登半島地震から約10ヶ月が経ちました。改めまして犠牲となられた方々のご冥福をお祈りするとともに、被災されたみなさまには心からお見舞い申し上げます。
6月上旬頃、ご縁のある企業のお招きで石川県七尾市を訪れる機会がありました。目的は、被災した現地の空き家を復興に役立てられないか、ということです。
巻組が拠点を置く宮城県石巻市は、2011年の東日本大震災で約4,000人が犠牲となり、2.2万戸の住宅を失いました。とにかく家が足りないという状況のなか、外部からやってくる大勢の支援者のために、「修復すればまだ住める空き家」を利用して住まいを提供したいーー。それが巻組の出発点でした。
能登半島地震でも、住宅被害は膨大な数に上ります。東日本のときと同様、復興には「ヨソモノ」の力がきっと欠かせません。彼らの住まいの確保も重要なポイントになるはず、と考えながら現地に向かいました。
古い木造家屋は全部ダメ、なのか?
以下、実際に被災地を見て、「古い木造住宅」について考えるところを書いてみます。
能登半島地震における人的被害の最大の原因は、建物の倒壊です(圧死が約4割)。木造家屋が軒並み崩れている光景はたくさん報道されましたし、私が訪れた七尾の市街でも、1階部分がぺしゃんこになった家などがあちこちに見られ、あらためて状況の深刻さを認識しました。
ただ、ここで私が危惧するのは、「だから古い木造家屋は危険なんだ」と十把ひとからげに切り捨ててしまう、雑な議論が先行してしまうことです。
ご存じの方も多いと思いますが、耐震基準には、①1981年5月以前の「旧耐震」、②それ以降2000年5月までの「新耐震」、③それ以降の「2000年基準」の3つがあります。地震後、あるテレビ番組では、この3つの家の模型をガタガタ揺すって旧耐震だけバッタリ倒れる様子を映していました。
でも、これもかなり乱暴な「実験」だと思います。現実には、揺れのタイプ、地盤の強弱、建物の形状など、いろんな要因が絡み合うことで被害は異なるはず。「震度○以上ですべての木造が倒れる」わけではないし、「鉄筋コンクリートならどんな揺れでも大丈夫」なわけもありません。実際、私が見た七尾市の一部地域では、鉄筋コンクリート造の大規模な建物の増築部分がぱっくり割れて傾いているものもありました。
家の耐震性が大事なのは当然です。でも、木造の古家は危ないからぜんぶ壊して建て替えろ、という方向に行ってしまうなら、問題だと思います。それでは日本の不動産業界の悪しき慣習である「スクラップ&ビルド」「大量生産・大量消費」に逆戻りだからです。
空き家活用が専門の巻組は、築40年以上の木造家屋、つまり旧耐震基準の物件を日常的に扱っています。柱などに必要な補強を施せば、まだまだ使える家屋はたくさんあるのです。この耐震補強工事をもっと手軽に(安価に)できる方法の開発こそ大事ではないでしょうか。私たちも今後、たとえば地域の間伐材を集めて筋交いに利用するというような、巻組ならではの手法を研究していきたいと考えています。
古い空き家は「使う」ことで危険低減
もうひとつ強調したいのは、古家が使われれば使われるほど地域の防災性は上がっていくという原則です。
一般に、人が住まない古家は荒廃し、強度は下がります。でも、そこに人がいないので、どれほど危ないかをモニターできません。地域の空き家が、その危険度をだれも知らないまま放置されている、というのが防災上最も望ましくないはずです。逆に、なんらかの形で人が利用するようになれば、コミュニティの中で「見守られている」状態になり、結果として地域全体の防災性向上につながるといえます。
また、古家の利用者が増えればコミュニティの活性化につながり、その意味でも安全性はアップするでしょう。たとえば、巻組が石巻で運用するシェアハウスのひとつに古井戸があるのですが、興味を持った首都圏の巻組物件ユーザーが定期的に通ってきて、それを地域の「災害時協力井戸」として再生するプロジェクトに取り組んでくださっています。これなどは、井戸の整備というハード面だけでなく、課題解決型人材の呼び込みというソフト面においても、空き家活用が地域の安全性向上に寄与した例ではないかと思います。
もちろん、空き家の活用方法は地域の人たちの納得を得られるものでなければいけません。能登においても、ていねいに議論を進めて、支援者のための住まいづくりに古家を活用していければと考えています。いまこそ被災地に外部からの人材が入ってこられる状態をつくることが必要だと思うからです。
東日本大震災の教訓に学ぶなら
とはいえ、能登の被災地では、インフラ復旧や仮設住宅建設などの復興メニューは大幅に遅れていると感じました。そのため、多くの住民がもう域外に流出してしまったという声も聞きました。外部の人の力を生かすといっても、まちの復興・再生はその人たちだけではできません。今後はどうやって元の住民の力を再結集するかも課題になっていくのではないかと思われます。
また、東日本大震災から13年が経ち、地方における人口減少の切迫度は一段と増したことも痛感しました。その状況下での「サステナブルな復興まちづくり」とはどうあるべきなのか。それは巻組が語ることではないかもしれません。
ただ、東日本大震災を知る東北のプレイヤーたちは、当時を振り返り、防潮堤にしても復興住宅にしても「新しく作らなくてもいいものまで作ってしまった部分がある」という認識と、だからこそ能登の復興では別の方法を考えなければという課題感を、ある程度共通して持っていると思います。私もその一人です。
もちろん、新しく作るのは全部ダメ、というのではありません。でも、いたずらに規模を追うことなく、まずは今あるもの・使えるものをうまく使っていく、という原則が採用されることを、私は強く願っています。そして、そのために巻組にできることはなにか、考え続けていきたいと思います。