■多拠点居住から石巻定住へ

2021年11月に石巻に移住しました。現在は、巻組さんが築70年の古民家を再生した物件Oliに住み、会員制コワーキングスペースThird Selfを拠点に仕事をし、またCreative Hubのメンバーとして東京や石巻で作品発表も始めています。

それ以前は1年半ほど、２つの会社を経営しつつ多拠点生活をしていました。LivingAnywhere Commons（LAC）という、住む場所に縛られないライフスタイルを実践するコミュニティの会員になって、全国に約40か所（2022年8月時点）あるコワーキングスペース付きシェアレジデンスに数日〜1週間ずつ滞在するライフスタイル楽しんでいたのです。

石巻との出会いも、LACの方の勧めで何の気なしに訪れたのがきっかけ。巻組のゲストハウスOGAWAもLAC拠点のひとつで、そのリノベーションイベントに参加してみたのでした。そしたら、この地の魅力にハマってしまった。その後1年間で6回も訪れ、そのたびに「もっとここに長く居たい」という気持ちが募っていったのです。

■文章を書く、ものごとを「編集」する

生まれは愛媛県で、大学・大学院は北海道。社会人デビューは東京でした。土木工学を学んで大手重工業メーカーに就職。現場でやりがいのある仕事を担当するも、上司とうまくコミュニケーションがとれず、ストレスから心の不調に陥ってしまって。その後、文章を書いて伝える仕事に自分の適性を見出し、とあるベンチャー出版社への転職を決意します。人のストーリーを発信するメディアを運営している会社でした。そこで僕は、自分は編集者という仕事に向いている、と確信。未経験からの挑戦でしたが、半年後には編集長を任されるまでになりました。

その後、地方への移住支援サービスを提供する会社に役員として迎えられ、さまざまな業務を経験しました。同時期に静岡県下田市へ居を移したのは、自ら「地方で活躍」を実践したいと考えたからです。さらに、下田で友人が立ち上げた会社の経営にも参画し、地域の魅力発信や地元企業の事業支援などに携わりました。

自分自身の会社をつくるという夢を実現したのは、2021年2月です。設立時の登記は故郷・愛媛県松山市でしたが、石巻に定住することを決めて会社ごと引っ越しました。この会社では、社会に出たてのころ苦労した「コミュニケーション」の支援を軸に、複数のモノゴトをひとつの形にまとめ上げる「編集者」の立ち位置で、自分のやりたいことを探求しています。社名はmidnight sun。たとえ世の中が真夜中みたいに暗くても、自分は太陽のように輝いて周囲を照らす、という意味を込めました。

■ビジネス思考とは真逆のアートの世界へ

僕にとって石巻は、とても居心地のいい好きな場所。その理由は人のマインドだと思います。ここには新しいことを始めるのに抵抗のない人たちが多い。巻組さん自身、常に新しいことに挑戦しているし、その「大量生産・大量消費の文化に抗う」姿勢にはとても共感します。そうやって「社会にとって本当に必要なこと」をやっている、先進的な価値観の人が石巻には集まっているように感じます。

Creative Hubというプラットフォームを利用して作家としての道を歩み始めたのは、アートというものへの興味からです。2022年2月、原宿でのグループ展で初めて映像作品を発表。同年8月には石巻で、4000字ほどのエッセイ作品をその場で読んで感想を書いてもらうという個展を開催しました。僕が長く身を置いてきたビジネスの世界では、まずは目指す結果ありきで、そこから逆算してやるべきことを考えます。でも、そこには余白とかアソビが全然ない。アートは逆です。結果はどこへ行くかわからないけど、いま自分の中にあるものから出発して心のままに表現する。そのプロセスを体験したかったんです。

そして、いま考えているのは、自分の本を出すための出版事業を始めること。それも大量に印刷して大量に販売していくのではなく、多くて100部くらい。買って読み終わったら返却してもらい、それを再販するんです。資源保護と流通を両立させる新しい仕組みがつくれたらいいですよね。ほかにも、ここ石巻で自分の可能性をいろいろ試してみたいと考えています。

（2022年8月取材）